平成生まれのゆとり作家が夏目漱石に勝つ方法
読者と接点を持つ。コミュニティーをつくる。『拝啓、本が売れません』特別編③
■額賀澪が夏目漱石に勝つ方法
「作家というのは大変な仕事ですよね」
取材の終わり、オフィスをあとにしようとする私達に、加藤さんはそう言った。
「新人だとかベストセラー作家だとか、本になって書店に並んだらそんなの関係なくて、過去の文豪とも真正面から戦わないといけない」
「夏目漱石とか、めちゃくちゃ面白いですもんね」
加藤さんは、笑いながら「すごいことですよね」と頷いた。
「でも、額賀さんが漱石とか太宰とか芥川とか、そういった過去の文豪に絶対に勝っているところもあるんですよ」
「えー……、ブラインドタッチの速さとか?」
でも、夏目漱石がパソコンを手に入れたら、私よりずっと早くブラインドタッチを習得し、あっという間に使いこなしてしまうような気がする。
「額賀さんは生きてるってことです。夏目漱石は、読者と交流したり、コミュニティを作ったりはできないですから」
な、なるほど。
生きていれば、読者と交流できる。作品以外の場所で読者を楽しませることができる。
果たしてそれは作家がやるべきことなのか。そんな意見が出て来るのはもちろん承知の上だ。でも、私はそのときの加藤さんの言葉がもの凄くしっくり来た。
『拝啓、本が売れません』を書きながら、「売上のことばかり気にしてるがめつい作家って思われないかな」とほんの少しだけ心配していたことが、綺麗に吹っ飛んだ気分だった。
どんな綺麗事や理想を並べ立てたって、本が売れなきゃ私は作家を続けられないんだから。
「よければcakesもnoteもガンガン使ってください。額賀さんみたいな若手作家にこそ使ってほしいと思ってますから。note発信で、ヒット作を生み出してください!」
加藤さんにそんなエールと共に見送られ、私とワタナベ氏はピースオブケイクのオフィスを出た。
渋谷駅に向かいながら、私はメールを打った。先日新作の打ち合わせをしたばかりの、某社の担当編集K氏へ。